マンション購入を考える際、価格や利便性などと合わせて検討しなければならない事項に、災害リスクがあります。マンションの建っている場所が、災害に合いやすい土地なのかどうかということです。
災害リスクやハザードマップという言葉は、近年良く聞かれるようになりましたが、
『災害リスクはどうやって確認するのか』
『災害リスクはどこまで気にすべきなのか』
など、まだまだ十分に認識されていないこともあります。
ここでは、マンション購入の際に確認しておくべき災害リスクについて、国が進める防災・減災プロジェクトを踏まえて整理します。
災害リスクのある土地に建つマンション購入は避ける
近年の災害リスクの高まり
近年、『何十年に一度』と言われる洪水が頻繁に起こり、大きな被害をもたらしています。
この、『何十年に一度』という数字は、感覚的、あるいは比喩的な言葉のように受け取りがちですが、実際は根拠のある数字です。
(よく、何十年に一度の天才などと言ったりしますが、そういったキャッチコピー的表現とはまったく違います。)
洪水は、河川の増水により水が溢れたり、堤防が決壊して住宅地などに水が流れ出すものですが、それぞれの地域において、過去の実績から、どれだけの雨が降った場合に洪水が発生するのかが想定されています。
しかし、近年は、その過去の実績を大幅に上回る頻度で洪水が起きており、従来は生きているうちに1回あるかないかといった確率だった洪水が、『生きているうちに必ず、場合によってはそれが何回も』発生するものだという認識を持つべきものに変わっています。
国のプロジェクト
こうした状況を踏まえ、国土交通省の『総力戦で挑む防災・減災プロジェクト』では、防災・減災対策のひとつとして、不動産取引時に、水害ハザードマップを提示し、取引の対象となる物件の位置等について情報提供することを令和2年より義務化しています。
これにより、新しく住む場所を探すのであれば、災害リスクのある場所を避けること、そしてやむを得ず災害リスクのある場所を選択する場合は、そのリスクと対応策を自身で考慮しておくことが求められます。
不動産取引時の重要事項説明に義務化された内容
令和2年より義務化された不動産取引時の⽔害ハザードマップの情報提供は、洪水、雨水出水、高潮に関するものです。
不動産会社は、これらの水害ハザードマップを購入者に提示し、対象物件の概ねの位置を示すことになっています。
- 洪水ハザードマップ
⇒河川の増水により水が溢れたり、堤防が決壊した場合に、浸水することが想定される区域やその程度などを示したもの。
- 雨水出水ハザードマップ
⇒大雨により下水管などから水があふれ、浸水することが想定される区域やその程度などを示したもの。
- 高潮ハザードマップ
⇒高潮(低気圧による海面上昇)による被害が想定される区域とその程度を示したもの。
なお、不動産取引時の重要事項に水害リスクに係る説明が追加された理由について、国土交通省では以下のとおり説明しています。
昨今、平成 30 年7月豪雨や令和元年台風 19 号など、甚大な被害をもたらす大規模水災害の頻発を受けて、不動産取引時において、水害リスクに係る情報が契約締結の意思決定を行う上で重要な要素となっていることを踏まえ、水防法(昭和 24 年法律第 193 号)に基づき作成された水害ハザードマップを活用し、水害リスクに係る説明を契約締結前までに行うことが必要となってきたことから、今回、重要事項に水害リスクに係る説明が追加されました。
出典:宅地建物取引業法施行規則の一部改正 (水害リスク情報の重要事項説明への追加) に関するQ&A
ハザードマップの確認方法
ハザードマップの所在
上記のとおり、マンション等の購入の際に、不動産会社から重要事項の一部としてハザードマップが提示されます。
しかし、物件を探した後にハザードマップを確認したのでは、その場所が仮に災害リスクのある土地であった場合、それまでの物件探しの時間が無駄になってしまいます。
そのため、ハザードマップは、マンション探しの最初の段階で確認する必要があります。
ハザードマップは、該当するマンションが位置する市町村で作成しており、ホームページで公表または直接配布を行っています。
また、国土交通省のハザードマップポータルサイトでは、全国の自治体の情報をまとめて公表していますので、ここで複数の市町村のハザードマップをまとめて確認することができます。
ハザードマップポータルサイトには、『わがまちハザードマップ』と『重ねるハザードマップ』のページがあります。
『わがまちハザードマップ』は、市町村のハザードマップにリンクされています。
一方、『重ねるハザードマップ』に掲載されている情報は、国や都道府県が作成した情報であり、不動産取引の重要事項説明の時に使用される市町村のハザードマップとは必ずしも一致してはいません。
しかし、市町村のハザードマップで情報が確認できない場合は、『重ねるハザードマップ』で、その土地の災害リスクを概ね知ることができます。
災害リスクは、自身で判断することが必要
不動産会社は、不動産取引時に水害ハザードマップを提示し、取引の対象となる物件の位置等について情報提供を行う必要がありますが、不動産会社が行うのはあくまで情報提供であり、そのリスクを判断するのは購入者自身です。
不動産会社は、ハザードマップの内容に関しては把握していませんし、防災に詳しいわけでもありません。
むしろ、不動産会社の立場からすると、「災害などめったに起きるものではない」と説得をして、災害リスクのある場所でも購入を勧めたいでしょうし、商売上それは当然のこととも言えます。
しかし、そうした技術的根拠のない言葉には乗せられず、自身の判断で、より安全な場所を選ぶことが必要です。
また、マンションの高層階であれば浸水の心配がないだろうと考える人もいるかもしれません。
しかし、令和元年の台風19号で武蔵小杉駅近くのタワマンが被害を受けたように、建物の一部が浸水したことにより、停電や断水など建物全体が機能不全になってしまうこともあります。
さらに、浸水後の共用部の補修、改修などには、多額の費用が必要となってしまいます。
この被害にあった武蔵小杉駅付近をハザードマップで見ると、確かに洪水の浸水想定区域にあります。
しかし、同じ路線沿いでも、多摩川から離れると浸水想定区域に入らない場所があることも分かります。
マンション購入の際には、こうした情報を事前に確認しておくことが必要です。
さらに今後、大規模水害の頻発や、災害リスクのある場所への居住を抑制する施策が推進されると、浸水想定区域などに建つマンションの資産価値は相対的に下がることも考えられます。
そのため、将来的な売却の可能性を考慮しても、災害リスクを避けた場所を選択することが望まれます。
まとめ
以上、マンション購入の際に確認しておくべき災害リスクについて整理しました。
以下に改めてまとめます。
・災害リスクのある立地のマンション購入は避ける
(災害が多発している。また、国の施策により災害リスクのある場所への居住は抑制が望まれている。)
・ハザードマップの確認
(事前の自己調査および不動産取引時の確認が必要。)
・災害リスクの自己判断
(不動産会社の話に乗せられず、リスクと対応策を検討する必要あり。)
自身や家族の生命と財産を守るために、災害のリスクを十分に理解したうえで、マンション購入を検討して下さい。
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